研究会の記録
(MAKINO 第127号 P9より抜粋)
第819回 野外研究会 2023-07-21

野火止用水の植物と雑木林
坂本アヤ子(本会会員)

 毎日連続の真夏日だ。参加者は23名。暑いと言いながら元気に散策。平林寺は埼玉県新座市野火止にありお坊さんが修行のためのお寺なので滞在するときは静かにすること、と注意書きがある。
 今日の講師は谷本𠀋夫会長で、ここの植物調査をおこなっている。
 正門からまっすぐ入り左半分のお庭で行動する。静かに過ごすこと。本殿や塔も古刹で落ち着いている。
 大木、古木が多くスギ、マツ、ヒノキ、カエデ、サクラ類などの樹木はどう生きてきたか、成長してきたかなどを伺う。珍しい植物が見えた。フタリシズカ(センリョウ科)の果実がついているもので、私は初めて見るものだ。上を向いた花穂に白花がつくが、果実の穂が弓なりに曲がっている。種子は数ミリ。花が終ったあと茎の下部の節から閉鎖化をつけた花序を出す。次に石灯籠に細い葉が生えている。クロノキシノブ(ウラボシ科)(❶)である。葉の下部の葉柄が黒褐色をしている。胞子は葉の三分の一くらいの先につく。(以下略)
【写真:クロノキシノブの株元】


研究会の記録
(MAKINO 第127号 P9-11より抜粋)
第820回 研究会 2023-08-27

室内研修会
坂本アヤ子・森 弦一(ともに本会会員)

 新宿歴史博物館の講堂でおこなわれ、土屋喜久夫幹事の司会、谷本𠀋夫会長の開会の挨拶で始まった。
 本日の講演は会長を含む次のお三方です。
 1. 森弦一(本会会員)
 『牧野植物混混錄』編輯制作こぼれ話
 編集幹事として会誌『Makino』の編集製作を担当している森会員が、当会が百十周年記念(2011年)として企画した、牧野博士の個人雑誌『牧野植物混混錄』の製作に携わり、本業の合間の作業ゆえ、早二年になるが、制作作業が佳境に入ったということで、作業状況の報告とともに、作業しながら感じていることを話してもらった。以下は、森会員によるまとめである。(坂本)
 出版計画の概要は、以前も報告したように、全14号のうち、第1号から第10号までの鎌倉書房発行分は影印で画像処理し、第11号から第14号までの北隆館発行分は新たに組版する。組版に際しては、漢字使いもかな使いも一切原著のままとし、ページ内の全文字数も原著と違わぬように配慮している。原著自体発行部数が少なく、古書としても一般には入手しがたいので、文献として引用などの際に、原著と異なることのないようにするからである。つまり、原著の再版とほぼ変らないので、このたびの出版物をオリジナルと同様に扱える。なお「ほぼ」というのは、一行の文字数が原著と異なる場合があるという意味である。
(以下略)
【当日の写真から:森会員】

 2. 内田典子(本会会員)
 絶滅危惧の小石川植物園のコブシモドキ
 コブシモドキ(Magnolia pseudokobus;モクレン科モクレン属)は、1948年(昭和23年)に阿部近一と赤澤時之の両氏が徳島県相生町の山中で一株だけ発見され、発見時は匍匐状で地面に接した部分から根を出しその部分から株立ち状なっていたので初めは「ハイコブシ」と呼ばれていた。原木は枯死したと考えられるが、阿部氏によって原木からの栽培で絶滅からは逃れた。三倍体なので果実はできても種子ができないため挿木で増やされたようだ。栽培されたものは直立して大きく成長する。
 現在小石川植物園のコブシモドキは、データがないので植栽時期が不明だが、内田さんの過去の写真から2016年夏には植えられていたことが確認できている。
 コブシモドキはコブシによく似ているが、葉はコブシよりやや大きく、倒卵形で長さ15センチ内外、基部は広く楔形、先端はとがる。表面は無毛、裏面の脈は隆起している。4月中旬頃に径1215センチの白い花が咲く。(以下略)
【当日の写真から:内田会員】

 3. 谷本𠀋夫(本会会長)
 小笠原諸島「東洋のガラパゴス」は病んでいる
 長い間何度も小笠原諸島に通われてきた経験をもとに、小笠原の現状について話された。以下、配布資料からの要約です。。
 演題に記されているガラパゴスは南米大陸のエクアドルから900km離れている諸島。小笠原諸島もよく似ていて、東京湾から1000km離れ、大陸とつながったことはない「海洋島」で、どちらも動植物が独自の進化を遂げていた。しかし、小笠原では、移住者による開拓や伐採などで自然環境が大きく変容してしまったことが懸念されている。
 1828年にロシアの船団に乗船していたキトリッツが、遭難者2名の住宅を描いていて、その様子から豊かな海岸林が手つかずの状態にあったことが窺われる。1830年に欧米人やハワイ住民が移住してきたが、捕鯨船団と物品の交換や販売を目的としており大きな開拓はなされなかった。
江戸末期に八丈島からの一時的な移住があったが、本格的な開拓は明治期に始まる。米国や英国に島を領有される前に開墾の実績を上げて実効支配をもくろみ、開墾地を自由に選ばせたり、奨励金制度を設けるなどの優遇措置を施して住民を送りこんだ。しかし開墾を隠れ蓑に、貴重木やキクラゲ発生倒木を得るための伐採を目的とする輩も続出したため、さまざまな規制が設けられるに至ったが、それでも野放図な開墾は続き、森林の荒廃に繋がった。(以下略)
【当日の写真から:谷本会長】



研究会の記録
(MAKINO 第127号 P11-12より抜粋)
第821回 野外研究会 2023-09-09

東京学芸大学 −大川式植物検索入門
岡崎 惠視(本会会員)

 午前10時に武蔵小金井駅改札口に集合しました。当日は台風13号が東京地方を直撃し、小雨が降るなか、観察会の実施が危ぶまれました。しかし、熱心な参加者に押され、決行することになりました。参加者は11名(会員9名、非会員2名)でした。
 (中略)
 今回の観察会は大川ち津る氏が開発された植物検索教材「ボディーパンチカード」を使って植物検索を行うことでした。大川氏は平成17年(2006)東京学芸大学で博士号(教育学)を取得されました。79歳のご高齢での取得で、新聞に大きく揭載されました。著書には『大川式植物検索入門植物の特徴を見分ける本』(恒星社厚生閣、2013)があります。今回の研究会では、同氏が考案された「身近な草木 検索カード」を使いました(図❸左)。このカードで、身近な草木100種が検索できます。葉書大のサイズで、表紙と形質カードから構成され、大型リングで綴じられています。調べる形質(特徴)は51個あり、それぞれの形質に1枚のカードが割り当てられています。従って、51枚の形質カードがあります。表紙には、100種の植物が記されており、各植物(五十音順に並べられている)のすぐ下にはパンチで小さな穴が開けられています(図❹左)。各形質カードには、その形質を持つ植物のみに穴が開けられています(図❹右)。検索では、その植物が持つ形質に該当する形質カードを本体から取り出します。取り出した全てのカードを重ね、これに表紙の種名カードを重ね合わすと、全ての形質を備えた植物で穴が貫通します。
(以下略)
【写真:ボディーパンチカード】


研究会の記録
(MAKINO 第127号 P12-13より抜粋)
第822回 野外研究会 2023-10-03

東京都薬用植物園
熊井 啓子(本会会員)

 ここ東京都薬用植物園でガイドボランティアをやっていることと、私の尊敬する和田浩志先生が講師ということで、先生のサポーター役をお引き受けしました。当日はお天気にも恵まれ、西武拝島線東大和市駅に33名という多くの会員が集合しました。和田先生は植物と同じ目線で植物を語り、講義は緻密で分かりやすいです。薬草は文化遺産であると教えていただきました。
 先生から説明を受けた植物は、「漢方薬原料植物区」ではハトムギ、コガネバナ、オケラ類、ムラサキ等。「有用樹木区」ではニッケイ、オオミサンザシ、ナツメ、サネブトナツメ、キハダ、ゴシュユ、タラノキ、ノイバラ、ムクロジ、シロミナンテン、サンシュユ等。「民間薬原料植物区」ではエビスグサ、ハブソウ等。「ロックガーデン」ではセリバオウレン、オミナエシ、ホザキイカリソウ、レモンエゴマ、カリガネソウ等。「有毒植物区」ではイヌサフラン、センニンソウ等。「外国植物区」ではトチュウ等です。
 その中で9月から10月にかけて開花するオケラ類について、僭越ながら過去の写真も含めて解説を追加させていただきます。園内にはキク科オケラ属の4種類が植栽されています。(以下略)
【写真:オオバナオケラ】


研究会の記録
(MAKINO 第127号 P13–14より抜粋)
第823回 野外研究会 2023-10-16

黒山三滝のシダ植物
松野 裕二(本会会員)

 気温25度ほどで雲一つない観察日和の中、19名が参加。帰りのバスが1547分まで無いため、ゆったりと黒山三滝を散策する道程だった。
 黒山のバス停近くでは、イノモトソウ、テリハヤブソテツ、クマワラビ(❶)、オオヒメワラビ(❷)、シケチシダを観察した。クマワラビは、胞子の付いた所が縮れ、冬には枯れるのが特徴で、オクマワラビとは見分けられるとのこと。オオヒメワラビは、シケシダの仲間であるが、包膜は楕円形~丸形に近く、中軸に1mm程の翼があるのが特徴と、倉俣さんがスケッチブックに図示してくださる。シケチシダ(❸)は、中軸と羽片の付け根に突起があるとのことで、それぞれのシダの特徴をチェックした。
 少し進んだところの石垣では、イワヒメワラビ、コバノヒノキシダ、トラノオシダ、ミドリヒメワラビ、コゲジゲジシダ、タチクラマゴケ(❹)、フジノキシノブ、イヌカタヒバなどが生えていた。イワヒメワラビは、コバノイシガクマ科のシダで、この仲間はパイオニア植物であり、シダをやっている人からすると、あまり生えてほしくないシダのようだ。(以下略)
【写真:シケチシダ】