研究会の記録
(MAKINO 第125号 P9より抜粋)
第807回 野外研究会 2022.9.22.
南高尾山稜
牧野 澄夫(本会会員)
野外研究会は、昭和薬科大学の和田浩志先生を講師に招いて、南高尾山稜へ通じる細い山道で行われた。参加者は22名と大勢で、高尾山一号路のように集団が塊になって講師の話を聞くことができず、ほぼ一列になって観察した。台風が近づいており、昼過ぎには雨が降るとの予報で気をもみながらの観察会でもあった。
高尾山口から四辻までは沢沿いの細い道ですれ違いもままならないので、帰り道で観察することにし通過した。四辻につき、和田講師から観察の注意点、植物名を単に覚えるのではなく、その成り立ちやなぜそうなっているかまで考えて観察するように話された。ハルジョオンとヒメジョオン、ヤマボウシとハナミズキの識別などは知識を重視するマニアの範疇であり、それよりも実際に自分の感覚でしっかりとらえることが大切。たとえば、今まで登ってきた道は沢筋で湿気が多い。リョウメンシダのようなスギ林の下で湿気を好むものが多く、…(以下略)
【当日の写真から:樹皮が特徴のウラジロノキ(内田典子会員撮影)】
研究会の記録
(MAKINO 第125号 P9-10より抜粋)
第808回 野外研究会 2022.10.10.
多摩森林科学園のキノコ
坂本 アヤ子(本会会員)
朝から良い天気。参加者もキノコの観察が久しぶりで楽しみに集まった。
本日の講師は根田仁先生(森林総合研究所フェロー)、また科学園随行員の長谷川絵里さんにお世話になりました。谷本会長も来てくださいました。総参加者数17名、コロナ禍の為事前に観察者同士でも距離を取ること、採取は個人ではしてはいけないとか諸注意を受けて森に入っていく。先生は昨日、雨の中下見に来てくださっている。
第2樹木園から観察する。道はぬかるんでいる所もあるが先生は崩れそうな崖に入りキノコを採って説明をしてくださる。次々キノコが説明されると、みな夢中でカメラを向けノートをとる。今回のコースは私はあまり歩いていないエリアだったので、山深く感じた。
キノコは次々出てくるが、昼近くに雨が降りだしたので一度科学館まで戻り昼休みにした。昼食後はすっかり雨もやみ次は第1樹木園で観察に入ることにした。…(以下略)
【当日の写真から:タマゴタケ】
研究会の記録
(MAKINO 第125号 P10-11より抜粋)
第810回 野外研究会 2022.11.18.
小石川植物園 小笠原の植物
北住 拓也(本会会員)
2019年11月19日より一般公開となった新温室には、熱帯亜熱帯の植物が、その生育環境によって6室に区分けされて栽培展示されています。その1室に小笠原の植物があります。小笠原の植物といえば豊田武司先生ですが、事情により急遽会員の内田典子さんに集合した20名の案内役をお願いする事となりました。
下見の際、豊田先生から頂いた資料、“小笠原の植物とその類縁”、“小笠原植物の固有性の変遷”、“小石川植物園 小笠原の植物”を配布し、温室へと向かいました。小笠原の部屋(❶)には、およそ100種弱の植物が素焼き鉢等で育てられています。資料によると小笠原は年平均気温が23.2度、沖縄の那覇が23.1度とあまり変わらないのですが、雨量が那覇の2037mに対して1292mと大分少ない様です。ここでは鉢で育てているので、水やりや温湿度管理、植え替え等大変な作業がありそうです。海洋島である小笠原は、植物区系としては、沖縄や台湾の大陸島とは異なり、ハワイやミクロネシアに類縁をもつ種が多いそうです。固有種率
(自生種に対する固有種の割合)は、シダ類32%、草本類26%、木本類70%で全体としては42%と高い比率になっています。固有種はそこでしか生育していない種なので、もしハワイに同じ種が生育していたら広分布種ということになります。海流や風にのって遥々漂着したタネや、鳥などによって運ばれたもの等が、新しい環境で生き残る為には偶然的な要素が大きかったと思われます。その長い年月の中で分化しながら適応してきたものが小笠原の自然を支えてきたのだと想像します。…(以下略)
【写真:小笠原の植物展示室(内田典子会員提供)】
研究会の記録
(MAKINO 第125号 P12より抜粋)
第811回 野外研究会 2022.11.26.
国立科学博物館附属 自然教育園
長島 秀行(本会会員)
午前10時、JR目黒駅に集合した時はあいにくの雨だったが、15分程歩いて自然教育園に到着した頃は雨も止み、観察中は快適なお天気となった。
講師は谷本𠀋夫会長、他に参加者16名。当日の係(世話役)は岡崎惠視先生と坂本アヤ子幹事であった。今回は、元自然教育園主任研究官で現在名誉研究員の矢野亮先生にご指導いただいた。矢野先生は筆者と同じ大学の野外研究同好会の出身で、卒業後もご指導いただいている。
自然教育園は、港区白金台5丁目にある森林緑地で、元々宮内省の白金御料地であったものが、1962年(昭和37年)に国立科学博物館附属自然教育園となった(写真❶)。
まず始めに、谷本会長より配布された野外研資料「白金自然教育園の概要」を基に、自然教育園について解説していただいた(写真❷)。
つぎに路傍植物園を歩くと、周囲はコナラ・ミズナラ・ケヤキ・ミズキなどの落葉樹、スダジイ・アカガシ・クロマツ・アカマツなどの常緑樹で覆われ、ところどころに土塁が見られた。土塁とは、室町時代、地方にいた豪族が館を構えた時の遺跡と考えられている(写真❸)。
江戸時代になると松平讃岐守の下屋敷となり、「物語の松」、「おろちの松」などの老木はその名残りであろうと思われる。…(以下略)
【当日の写真から:ムサシアブミの液果】
研究会の記録
(MAKINO 第125号 P12–14より抜粋)
第812回 野外研究会 2022.12.4.
大船フラワーセンター
内田 典子(本会会員)
12月にしては暖かな青空の下、非会員2名を含む15名が集まった。ちょうどクリスマス前とあって、園の正面広場にはサンタクロースなどのクリスマス仕様がなされ、横では来年の干支のウサギの大きな顔が、畳二畳分はあろうかというボードに多色のビオラ植栽で描かれており、園ではこの時季ならではの雰囲気が漂っていた。この日は、平凡社の別冊『太陽』から3名がみえており、我々の観察会の様子や、会長・会員へのインタビューなど取材があるとのことで、いつもとは少し違った雰囲気で始まった。はじめに、植物園の榎本浩 現園長から、植物園の歴史と現況などについて紹介があった。この大船フラワーセンターは、神奈川県内の観賞植物の生産振興と花卉園芸の普及のため、昭和37年に神奈川県農業試験場の跡地に開設されたもので、現在は指定管理者制度により「日比谷花壇大船フラワーセンター」に名称変更されて管理されている。大正時代からこの地で改良・育成されたシャクヤク・ハナショウブや、体系的に収集してきたバラ・シャクナゲなどを中心に、国内外から収集した優れた観賞植物を栽培・展示しており、その数は、現在では3000品種あまりとなっているそうだ。また、温室は、昨今のエネルギー事情から省エネ節約のため加温はしておらず、そういった状況下にある温室育ちの植物が、今後どのように変化していくのかも研究のために見ているとのことであった。
本日の講師は前大船植物園(旧称)園長の篠田朗彦先生。早速の観察はハスの栽培区画から始まった。今は冬場なので葉の一枚も見られなかったが、栽培管理されている大きな水鉢の数は三百二十数個もあった(❶)。…(以下略)
【当日の写真から:ずらっと並んだハスの水鉢】
研究会の記録
(MAKINO 第125号 P14–15より抜粋)
第813回 研究会 2023.1.29.
室内会(総会・講演会)
青羽 美津子(本会会員)・岡崎 惠視(本会会員)
令和5年度総会及び講演会が新宿区立歴史博物館講堂で開催された。
1)総会(10:20-12:00)
総会には会員29名の出席があった。司会進行は牧野澄夫会員が務めた。谷本会長の挨拶の後、議長に岡崎惠視会員、書記に青羽美津子会員が選出された。…(以下略)
2)講演会(13:00-16:30)
講演会には、一般者を含めて33名の参加があった。座長は長島秀行会員が務めた。演者は加藤僖重顧問と谷本𠀋夫会長で、各講演後には活発な質疑応答がなされた。講演会は土屋喜久夫会員の挨拶をもって16: 20に終了した。
以下は各講演の要旨です。
タイプ標本、学名とは何か(加藤 僖重)
学名は分類・分類学に関心を持つ人にとって避けては通れない知識です。
学名はリンネ(Carl von Linné; Carl Linnaeus, 1707–1778)が考案した二語名法(属名+種形容語)が基礎となっています。その二語は世界共通語のラテン語またはラテン語化した語が利用されます。ラテン語は世界共通の言語といっても我々東洋人には馴染みのない言葉です。
学名(二語)の後ろにさらに人名(省略形)、ときにその後に年号が引用されていることがあります。これは学名を出版した人(新種発表者 author)と出版年です。発表者がどんな人か、その学名は何年にどういう論文(専門雑誌あるいは専門書)の何ページにどのように発表されたかを知る必要があります。つまり発表者がどのように新種を発表したかを知るために必要なのです。…(以下略)
【写真:講演される加藤講師】
知っているようで知らないスギ、そのるーつ・生態と利用(谷本 𠀋夫)
スギの名は直ぐの木のスとキで構成されスギ、その漢字は子葉が3枚であることから「杉」と説明されることがあります。直の木はまっすぐに伸びる樹形から納得できますが、漢字の方は、なんらの根拠もない語呂合わせです。中国語の「杉」は広葉杉(Cunninghamia lanceolata)で、スギは(Cryptomeria japonica)1属1種、我国特産とされています。しかし、中国にもよく似た柳杉(Cryptomeria fortunei)が記載されています。
「杉」の語源は、たくさんのものが入り交じるイメージ、つまり針葉がたくさん枝から出ている姿を表現し、「彡」を利用しているそうです。「彡」は髪、髭にも含まれており「細く、細かいものが隙間を空けて並ぶ」様子を表し、スギの枝葉のイメージと一致するようですが、広葉杉が語源なのか杉が語源なのか少し疑問が残ります。
環境省の巨木数調査では、日本全国の巨樹は5万5千798本、樹種別ではスギの1万3千681本、2位はケヤキの8千538本、3位はクスノキの5千160本でイチョウ、シイノキ、タブノキ、マツ類と続き、天然記念物に指定されている老大木は、圧倒的にスギが多い。…(以下略)
【写真:講演される谷本講師】