研究会の記録
(MAKINO 第115号 P11より抜粋)
第766回 野外研究会 2019.6.9.―6.10.

日光植物園と戦場ヶ原
磯 部 和 久(本会会員)・高 倉 誠 之

 梅雨空のもと、10時10分に東武日光駅に総勢15名の会員が集合し、バスに乗って日光植物園に向かった。
 日光植物園(正式には東京大学大学院理学系研究科附属植物園日光分園)。植物に関心ある方は何度も訪れたことでしょう。ここでは技術専門職員の清水淳子さん(本会会員)の案内もあることなので、植物観察を一部含めながら園内植物の維持管理に関して少し触れてみたい。
 西側の広場では白い総苞片のハンカチノキが迎えてくれた。南に回るとイヌブナの風倒木の根系が展示されていた(写真①)。当園は“男体おろし”や“爆弾低気圧”の影響で深刻な強風被害を受けることが多く、夏は落葉広葉樹、冬は常緑針葉樹への被害傾向があるとのこと。根系の展示はイヌブナの地下部の観察に利用されている。また、カラマツの幹はどのくらいの風速に耐えられるかの実験的研究も芝生広場の孤立木で行われ、十分な強度を持っていることが分かった。かつて強風で数本根返りしたすべての根株に心材褐色腐朽が認められたとのこと。…(以下略)
【写真:イヌブナ風倒木(磯部和久撮影)】




研究会の記録
(MAKINO 第115号 P12より抜粋)
第768回 野外研究会 2019.7.14.

筑波実験植物園
坂 本 ア ヤ 子(本会会員)

つくば駅集合時は小雨だったが筑波実験植物園についた時は雨は止んできた。参加者12名。今日は田中肇先生のご指導です。先生は雨天用と晴天用の資料を準備して下さった。雨天用のコースで出発する。温室へのコースで最初にサバンナ温室に入る。
 キソウテンガイ(Welwitschia mirabilis)は裸子植物でウェルウィッチア科に分類され1種のみ。アフリカのアンゴラ及びナミブ砂漠に分布する。葉は二枚の子葉が昆布がひらひらとしながら延々と地上に這うように伸び続けるよう特異な形式を持つ。葉幅は狭い。ここの葉はまだ小さいがどこまで伸びるのか楽しみである。当日、雄花がわずかに咲いていたが小さな花である。私がキソウテンガイを初めて見たのは2007年、上野の国立科学博物館の「花」展であった。展示されていた伸びた葉は数メートルに成長した子葉で、それをびっくりして見てきた。世界三大珍植物の一つである。。…(以下略)
【写真:キソウテンガイ(坂本アヤ子撮影)】




研究会の記録
(MAKINO  第115号 P13ー15より抜粋)
第769回 野外研究会 2019.8.24.

室内研修会
岡 崎 惠 視・長 島 秀 行・坂 本 ア ヤ 子(いずれも本会会員)

 昨年8月に続き会員のための室内研修会が「新宿歴史博物館」講堂で開催されました。昨年同様、会員以外の一般参加者にも自由参加としましたので、会員31名、非会員11名(学生2名を含む)の合計42名の参加があり盛大で有意義な研修会となりました。10:30に豊田武司副会長の挨拶で始まり、15:45に牧野澄夫幹事の閉会の挨拶で終了しました。当日は3題の講演があり、以下に講演者・演題・その概要を記します。(総合司会は手塚武博会員、写真撮影は内田典子会員、当日の実行係は岡崎惠視・岩崎敏子・坂本アヤ子会員が担当しました。)
 (1)田中肇(日本花粉学会評議員・本会顧問):虫媒花と風媒花
 田中先生は日本における花生態の草分けで、この分野の第一人者である。多くの著書があり、日本花粉学会賞(1999)など複数の賞も受賞されている。
 花は有性生殖器官で、他個体との遺伝子交換を行い新個体である種子を作る器官である。これは、雄蕊で作られた花粉が雌蕊の柱頭に運ばれることから始まる。花粉が他の花へ運ばれることは「送粉」、雌蕊に花粉が付くことは「受粉」と呼ばれる。今回のお話は、この送粉・受粉の仕方についてであった。種々の植物を例に挙げて、ご自身が撮影された多くの貴重な写真スライドを使って説明された。そこには、植物の生き残りのための巧みな「知恵」が随所に窺えた。以下にその概要を記す。…(以下略)
【図:受粉体系図(田中肇作図)】 

 (2)岡崎惠視(東京学芸大学名誉教授・本会会員)・倉田薫子(横浜国立大学准教授):葉の中の石―鍾乳体について
植物の葉の中に「石」があることは、大変不思議な現象であるが、「石」すなわち炭酸カルシウムを主成分とする鉱物が葉で形成されるお話である。この石は「鍾乳体」(cystolith、細胞内の石)と呼ばれる。この名称は、葉の巨大化した表皮細胞(異形細胞)中に、鍾乳洞の天井からぶら下がる鍾乳石に形が似ていることによる。その大きさは100−200µmである。炭酸カルシウムは海藻(紅藻)の一種で石灰藻と呼ばれるサンゴモ類(オオシコロなど)の細胞壁にも沈着している。かつて筆者は演者の岡崎氏と一緒にこの石灰藻を材料にして研究したことがあるので、懐かしく思いながら聞いた。
 鍾乳体は球状の本体とそれを細胞壁に付着させる「柄」からなる。「柄」はケイ酸(シリカ)で作られている。球状の本体は炭酸カルシウム(非結晶)を主成分とし、その他に細胞壁の成分であるセルロース、ヘミセルロースなどが含まれている。演者は、ミクロラジオグラム(微細で精密なレントゲン写真)でガジュマル、エノキなどの葉における鍾乳体の数を調べており、その数は1cm2当り数千個にも及ぶという。…(以下略)
【図:異形細胞中の鍾乳体(模式図)】

  

 (3)青木良(元首都大学東京非常勤講師):オトシブミをめぐる植物について
青木良先生は子供の頃からセミやチョウに興味を持ち、現在も昆虫研究を続けておられます。植物同好会なのに虫のお話なんてと思う方もいらっしゃるかとも思いますが、虫と植物相互の関係は“花と虫の共進化"“植物と虫の共生"など様々な話題があります。また日頃植物の観察時でも昆虫の思いがけない行動に感激して写真を撮るなど興味を引く存在でもあります。
 今回はコウチュウ目オトシブミ科の講演をしていただきました。初夏の山道などに落ちている葉巻を昔は「天狗の落とし文」などと呼んでいましたが、現在ではこの葉巻を作る昆虫をオトシブミ、葉巻は揺籃とよんでいます。オトシブミは産卵に適した葉を選ぶと、種に応じた切り方で葉を切り、萎れるのを待って二折し、葉の先端を少し巻いたところで産卵し、その後一気に巻き上げます。幼虫は内側の葉を食べて生長します。揺籃の中で孵化し、幼虫は乾燥や天敵の鳥、アリ、クモ等から身が守られ、約1か月で成虫になります。オトシブミの種類によって利用する植物と巻き方が異なります。…(以下略)
【写真:ヒゲナガオトシブミの揺籃(青木良撮影)】




研究会の記録
(MAKINO 第115号 P15より抜粋)
第771回 野外研究会 2019.9.28.

高尾山シダ入門観察会
手 塚 武 博(本会会員)

 今日は朝から晴。集合場所の高尾山口駅前広場は登山者で埋まっていた。本日の講師は高栄博先生(神奈川県のシダ植物代表)。コースは1号路入口から薬王院まで。参加者は25名(内非会員5名)。
 10:00に出発した。参道の登り口にシノブ、ヒメノキシノブ、トウゴクシダ、ベニシダ、オクマワラビ等が現れ、高栄先生の明快な説明が始まった。トウゴクシダの特徴は、最下羽片下向き第1小羽片が長めで切れ込みが深いとの事(ベニシダはここが短く通常切れ込みはほとんどない)。続いてナライシダがあったが、葉(羽軸)に毛が多く葉柄に鱗片が少ないので、ナンゴクナライシダ(この逆はホソバナライシダ)とされた。
 すぐ近くで会員の横山譲二先生がオオカモメヅルの実を発見されたが、本当にカモメが羽を広げた姿に似ていた。シダを観察しながら高栄先生は、シダには変異や交雑種が多く、フィールドで観察していると「これは・・・かな?」と疑問を感じることがよくあるが、そういう時は胞子を持ち帰って顕微鏡で胞子の数や形をよく観察することが必要だと言われた。特に筆者のような初心者は、図鑑だけではわからない場合が多い。…(以下略)
【写真:説明される高栄先生(岩崎敏子撮影)】