花のひろば:野外研からのスナップ




第696回 野外研究会

第694回 野外研究会


 花のひろば11:会誌から 




 何年か前、ヒルガオとコヒルガオの違いについて長田武正著『野草図鑑①』(保育社)に詳しく記載されているのを見ました。それを参考に、両方が咲いていた草むらで、友人とこれはコヒルガオ、あれはヒルガオと見分けたものでした。
 先日の野外研で、渡良瀬遊水地へ行きましたが、そこで見たのは葉先が尖ったコヒルガオばかりでした。「家の近くではどうかしら?」と犬の散歩のときに立ち止って数か所を見ました。こちらもコヒルガオばかりでした。葉先が丸いヒルガオはなぜ見られなくなったのでしょうか?何処で見られるのでしょうか?


 アマゾンへ行って来ました。「大アマゾン展」(国立科学博物館)にです。植物部門の展示は他部門より少なめでしたが、植物研究部長の岩科司氏のギャラリー・トークが聞けました。
 短時間でしたが、氏によるとアマゾンの森林植物の特徴は次の3 点に集約できるとのこと。①板根(単純に言えば、太陽光が林床まで届きにくいので、地盤が意外に痩せていて、表土が流された場合、高木は根が発達しなく、倒れるのを支える為の進化か)、②絞め
殺しの木(ガジュマルなどのイチジク属Ficus に多い。サルや鳥により散布された種子が地表まで達しないで樹上に付着し、発芽する。根は気根として幹を絡めながら地上に達し、成長する。さらに上方へと宿主の樹冠を超え、全体を覆うため宿主は枯死する)、③幹生花(花や実が幹や太い枝の基部に直接開花・結実する。これは、枝の先まであると動物が採りにくいので、採食・受粉を容易にし、地面への効率のよい種子の拡散のための進化とか)。
 以上は、アマゾンに限らず、熱帯雨林地域では各地で見られますが、広域にわたっていて典型的であることからのトークと思えます。
 さて、上記③の幹生花の代表的な種であり、チョコレートでおなじみのカカオ(Theobroma cacao L.)についてちょっと記します。所属は、アオイ科(かつての新エングラー体系やクロンキスト体系ではアオギリ科)。中南米の熱帯地域に多いが、アマゾン川上流域が原産地とか。およそ1 万2 千年前に住み着いた人類に重宝がられ、「神の食べ物」(学名のTheobroma の意)と呼ばれてきました。植物学的には、幹生の芽は茎上不定芽に相当し、植物ホルモンの働きによって誘導されているようです。しかし、そのように見えるが、厳密にはカカオの場合は、休眠芽のうちの潜伏芽(latent bud)とされているようです。
 幹生果は右下の画のように、長径15–30cm のラグビーボール状で、カカオポッドとよばれ、カカオ豆になる種子を多く内蔵しています。幹生花は花径1.5–3cm ほどの小さな白系で、多くが房状に幹生。膨大な数の花に対して果実は極端に少ないが(結実率は1%未満)、それで植物生態としてのバランスがとれているのでしょう。
 各々の小さな花は右上の画のように、絶妙な構造で驚嘆します。5 数花で外側が花弁状の萼片、スプーン状でグニャッと曲がっているのが花弁、その基部の椀型の袋の中に葯が入っていて、下に向かって円筒状に細長く伸びている黒っぽいのが仮おしべ、囲まれた中に柱頭、とのことです。両性花で虫媒花。媒介者はヌカカのようです。葯と仮おしべと柱頭の奇妙な構成は、送授粉の仕組みを考えさせます。
 ところで、アマゾンの植物というと、マーガレット・ミー(Margaret Mee 1909–1988) を思い出します。このイギリスの女性画家は15 回にわたって奥地まで探検し、精力的に現地の植物を見事に描きました。その中では、現在野生絶滅した種もあると聞いています。