7. イネ:イネ科の例外?
 私たちの主食である米、その花を観たことありますか。田圃のわきを通りながら、花が咲いているな、までは見ているはず。そこで質問、1 個のイネの花に雄しべは何本ありますか? 答は写真で示したように6 本。6 本目はピントから外れて、花の裏側にちょっと見えるだけだが。
 イネ科植物の多くの種の花は雄しべを3 本ずつもつている。しかし、イネは自らの名を冠するイネ科の植物なのに、例外的に雄しべを6 本も持っているのだ。例外的と書いてしまってから、本当に例外的か否かを知るため、長田武正(1989)「日本イネ科植物図譜」の記載や図で雄しべの数を調べてみた。この図鑑には300 余種のイネ科植物が掲載されており、その3 割ほどの95 種で雄しべ数が示されていた。計数した結果、1 小花あたり雄しべを3本もつ種は73 種(77%)、1 −2 本は19 種(20%)、そして6本あるのはイネを含めて3 種(3%)にすぎなかった。やはり例外的だと言えよう。
 イネの花が受粉するには雄しべや柱頭を頴の外に出さねばならない。そのとき、硬い頴を開くのは花被片に起原する鱗被である。開花の準備が整うと半透明の鱗被が吸水肥大し頴を押し開き、次いで葯や柱頭が外に出て風媒受粉するのだ。



8. オオバコ:風と昆虫を使う
 雄しべはイネと同様に長い花糸の先に葯をつけ、風が吹いたとき葯が揺れて花粉が散るようになっている。また柱頭は細長く、流れる大気の中から花粉を漉こし取りやすいよう微毛が密生し、ブラシ状になっている。このように、オオバコの花は風媒花の特徴を色濃く持っている。風媒花は一般に1つの果実の中に1個の種子しか作らない。これは大気中を漂う花粉を捕捉できる確率の低さを反映しているのだろう。ところが、オオバコの果実には数個の種子が入っており、風媒花としては例外的に多いのだ。オオバコはなぜ例外になるのだろうか。
 野外で見ていると、よくハナバチやハナアブの仲間が訪れている場面に出合う。花は蜜を分泌しないが、花粉は蛋白質や脂質に富んでいるので、ハナバチはそれを幼虫の餌として集め、ハナアブの仲間は自らの食料としている。そのさい、昆虫は花序の上を歩き回るので、花粉が授受されるのだ。こう見てくると、オオバコは風媒受粉のみならず虫媒受粉も兼用しているため種子を多く作れるのだ、と言えそうだ。





論考編 もくじ